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 ある中学校へ美術の講師が赴任した時、すでに授業は崩壊状態だった。いわゆる無法地帯だ。そこで管理職に指導法を訪ねることにした。すると返ってきた答えが、「指示はしてくれ、後はそこにいてくれるだけでいい」というようなものだった。ただし、危険な道具はすべて管理室に直しておいてくれと言われた。
 荒れた学校の指導とはこのようなものかと少し驚かされたが、いたたまれない様子が目に浮かび、そう答えた管理職を批判することもしなかった。
 その講師は、まじめな子はじっと一時間荒れた教室で小さくなって我慢する、それがかわいそうだったと話していた。
 また、新任研修の一環で指導主事が新任の授業を見に来た時、一人の生徒が寝ていた。新任は、あえて起こさなかった。実はその生徒は、授業の邪魔をし、それが叶わなかったら教室から飛び出し他の教室へ行くのだ。寝ていてくれる方が授業は進んだ。授業の後、指導主事から寝ている生徒を起こさなかったことへのお咎めがあるかと思いきや、なく、しかも起こさない方が良いのだと言われた。
 この2件の出来ごとを私は、半分笑いながら、半分痛々しく感じる。つまり、どうしょうもない現実と感じながらも、これでいいのか教師は、と思う。
 中学校は義務教育だから、辞めさせることもできないし厳しい処置もない。だが、それに甘んじて、無法地帯となった教室や生徒をそのままにしておいてよいのか、なんとか道はないのか。はみ出た生徒を一時的に自己を見つけさせるシステムや思い切った手立てを講じなければ、荒れた学校は変わることはない。
 教室にいる教師にすべてを任せるのはもう限界がある。管理職も教育委員会もそれはよくわかっているはずだ。現場もいかに一日を無事過ごせるかを夢見て日々を過ごす。本質的な策を講じる動きをつくることは枠の中では難しい。

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