組織化する教員の実態とやりがい
早稲田大学の油布佐和子教授らの研究グループ「教職の専門性と教師文化に関する研究会(PACT)」の調査によると、校長の権限強化や教育評価制度の導入など学校現場の制度改革が進む中、組織に適合することでやりがいを感じる教師が増加しているという。油布教授は「考え、行動する教師」の育成が重要だと指摘する。…
 
これは1月25日の日本経済新聞に掲載されたものであるが、要約したものが以下である。
 
本調査は教育改革が始まる以前の95年、改革幕開けの時期である99年、制度改革が一応の決着を見た現在を比較することで、一連の教育改革が教職と教師の仕事にどのような変革をもたらしたのかを明らかにした。
調査からは、この15年間で「組織としての学校」への転換と、教師の側のそれへの積極的な適応という傾向が明らかになった。
 
つまり、学校は鍋ぶた組織型から、校長の権限の拡大や組織マネジメントの考え方を導入することが求められてきた結果。「学校目標は、伝統的に決まっている」という学校はこの15年間で減少した(小学校45.5%→20.8%、中学校45.5%→35.0%)。「職員会議の内容は管理職が中心となって事前に協議する」学校は増加した(小学校40.0%→58.4%、中学校60.6%→81.8%)。運営も学校目標や経営方針を論じるのではなく、行事計画の打ち合わせに重点が置かれるようになった。
 
また、「毎日が忙しい」という項目に「あてはまる」「ややあてはまる」と回答する教師が、3時点のいずれでも95%以上になった。「慢性的に疲れを感じる」教師も85%前後存在し、教師の仕事負担感は15年間改善させることなく続いていることが明らかになった。
 
しかし、興味深いことは「教師になってよかった」と思う教師が微増し(小学校85.7%→89.3%→93.5%、中学校84.7%→85.7%→90.7%)、「やりがいがある」と回答する教師も、09年調査では95%を超え、過去の2時点を上回ったことである。
 
「やりがいがある」と回答する教師には、ある一定の傾向を見出すことができた。彼らは「子供の人格のあらゆる側面にかかわる」ことや「生徒に自分の体験談や人生観を話す」ことは少なく、「学級作り」といった側面にも大きな関心を払わないが、学校の役割は学力向上にあると強く認識しているのである。
 

ここで私見を述べる。

  彼らが、学校の役割を下線部のように認識し続けるならば、一時的に「やりがい」を得ても、自己矛盾の壁に突き当たる。
   
    ここに一冊の高等学校野球部の部員向け冊子がある。この高校は以前甲子園に出た県の強豪だ。最初の1ページ目には部の目的が記してある。「甲子園出場」ではなかった。「人格形成」と記してあるだけだ。次のページに初めて目標の一つに「甲子園」と出てくる。いかに甲子園に出た部でも、目的は人を育てることである。

  我々教員は人を育むために存在している。人を育むとは人の心を育むことである。その基礎の上に立って初めて学力伸長だ。教師も生徒も、喜びや悲しみを感じる自己の心を差し置いて、基礎学力何%向上などが目的なっている教育活動には矛盾を感じる時が来る。
 
   
要約の続き…


   同僚関係も変化してきた。「同僚と学校を離れてもインフォーマルに付き合う」といった「日常的な交流」や、「同僚と教育観や教育方針について話し合う」といった教師同士の「実践的交流」は減少し、互いの授業を見たり、指導に意見を述べたりするような「組織成員としての交流」に変化した。
 
教職の改革は今世紀に入って急速に進み、教員評価制度の導入や、指導が不適切な教員への人事管理システムの導入など、教職の養成・採用・研修のあらゆる側面に及んだ。さらに、職員会議の法的根拠の明確化、主幹教諭の配置など、学校組織運営体制が再編され、教師の日常的教育活動を規定する領域が大きく変容した。調査結果はこうした改革が学校現場や教師の仕事に浸透していることを示している。
 
学校が目的を絞り短期的なアウトプットを目指して編成された組織に変わることで、教師は、指導効果の表れの「不確定さ」からくる不安から免れるようになった。
 
しかし、これは手放しに歓迎できない。つまり、判断や決定を組織の上位に委ね、自ら教育の在り方を構想できない末端技術者としての教師の増加を意味しているからである。
 
子供の実態に向き合あっている教師同士が、互いに状況を共有し議論を重ね、社会・時代の変化に敏感でありつつ、広い意味での文化伝達の役割を担うということが必要であり、そのために「考え、行動する教師」の育成と学校現場での条件整備が求められる。
 
以上
 
さすがにしっかり調査を行いデータから実相を分析していると評価できる。次のデータとの検証を願いたい。
 
 うつ病などの精神性疾患で2008年度に休職した全国の公立学校教員は、前年度より405人増え、5000人を超えたことが25日、文部科学省のまとめで分かった。
 心の病などによる休職者は16年連続増で、1979年度に調査が始まってから過去最悪となった。
 調査対象は公立の小中高校などの教員91万5945人で、8578人が病気で休職していた。このうち、精神疾患が理由の休職は5400人で、病気休職の6割を占めた。03年度から4年連続で2ケタのパーセンテージだった伸び率は鈍化傾向にあるが、それでも数百人規模で増えていることに同省は危機感を強めている。昨年10月に同省がまとめた抽出調査では、うつ病の症状を訴える教員の割合は一般企業の2・5倍に上っていた。
 

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2010/02/05 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | わたしのつぶやき

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